無教養な人間なので、この歳になって、夏目漱石の「門」を初めて読んだ。
「門」を読んだことのある人には何を今更であろうが、この小説も子なしの物語なのである。
はじめは2人の間に何があるのかわからない。ただ主人公の妻の御米が子供ができないことをとても辛く感じていることが端々に読み取れる。
そして決定的になるのが、彼女が占い師のところに行ったという告白である。
そこで読者は、2人が2度流産したこと、2人の過去の報いとして御米は子供を授からないと占い師に言われたこと、彼女がその言葉を心から信じていることを知る。

宗助のちょっとした言葉に敏感に反応し、傷つく御米。
それは子供がいる家は賑やかで良いねとか、体調が悪いのは子供ができたからじゃないかとか、男性がいかにも言いそうな台詞で、本当に無邪気に何の悪意もない。だが、子供を授からない事を申し訳ないと思っている妻には涙を流すのに十分だろう。

私が驚くのは、漱石は子供に恵まれた男性であるにもかかわらず、こうした女性の気持ちを描くことが出来る想像力、繊細さだ。
今読んでも何ともリアルな2人家族の物語に、漱石というのは何と新しいのだと思う。

それから・門 (文春文庫)

それから・門 (文春文庫)